2004年12月16日

「三半規管」行動記録/日記

三半規管むずかしぃっす。

仕事で大学病院で研究している教授が研究で必要になったソフトを作るというのを かれこれ7年ほどやっている。いままでも「この論文のここにある実験結果のグラフ をだせるようにしたい」とかいって医学論文読まされたりしてたのだが、 単に要求をだしてそれを作らせるというのでは限界があるということになり、 三半規管について教授にレクチャーされてしまった。

教授といってもただの教授ではない。とある系列の頂点に位置する医大の ある学部で筆頭教授の肩書きを持つ人だ。ドラマとかだと、そういう偉い先生は、 医学そっちのけで政治工作に精を出したりするが、そういうのとは対極にあるひとで、 その分野ではその医療技術の高さでもってそれなりに名の通った人である。 肩書きに見合う権力を持ち実際それを発揮できる人ではあるが、 難しい症例があったりすると招かれて手術したりする実戦派だ。

毎年ある時期になると新しい若い先生方が研究室に配属されたり、 国家試験対策なのだろうが、医局に学生が押し寄せてくる。 そういう新人の先生方からは、まるで神か魔物かのように畏れられている人を 3時間ほど独占して三半規管についてレクチャーしてもらった。 まるまる全部の時間がレクチャーだけというわけではなかったが。

三半規管はその名の通り三つの部分からなる。三本の管がCの字になっていて、 この中に液体がつまっている。 身体が動くとこの液体が流動して、その流れを検知することで平衡感覚が得られる。 この管のCの字が配置される面が、平たく言うと水平と左右、前後の分そろっている。 それぞれの面はその垂線を中心に回転する量を検出するわけだ。

実際の教授の話はもっと専門用語と病状の説明に満ち溢れていたが、 私はもともと科学関係分野はなんでも好きなので、 こういう話は聞いていて非常に面白い。

しかし人間の平衡感覚というのは不思議だ。 例えば水平の回転を検知する器官が水平についていない。 器官は左右についているが、左側のやつだと水平方向の移動を検出する平面の垂線は、 頭を基点にすると肩幅に開いた右足を半歩ほど前に踏み出した位置に向かって伸びている。 かなり傾いているのだ。 左耳の奥にある器官で水平の回転を検出するものなのだから、 普通で考えればまっすぐ下にある左足の上にあっても良さそうなものなにに、 実際には右斜め前の方向を向いているのだ。 背骨を軸に身体を回転するような場合、この傾いた平面上の位置で回転量を検出する。 もっとも、センサーは3軸分あるわけだから、そのベクトルの合成を考えれば良いと いうのは理屈ではわかる。 しかし、3次元分ある軸はそれぞれ垂直になっていない。 前後方向の平面の垂線は、 頭から見て左手を左側に30度ほど上側に30センチ ぐらいの方向に行くし、左右方向の平面の垂線は右手をまっすぐ前に伸ばしたあたりに向かっている。 これら垂線からできる立体は立方体ではなく、なんか微妙につぶれている。 これが不思議だ。

しかし、なによりも難しいのが、医学専門用語かもしれない。 つき合いが長いからある程度はわかるのだが、突然言われると混乱する。 ラテラルキャナルとは外半規管のことでトランスアキシャル面の回転を検出する。 これは上で書いた水平方向の回転を検出する器官のことだ。 一個一個の用語をこうやって覚えるのは簡単だが、 話のなかでこういった用語が重奏的にでてくるから、 いちいちメモに書いたものを見直さないとすぐには話が飲み込めないことがある。 回転を表すのなら飛行機とかのようにピッチロールヨーで言ってくれれば 即座にピンとくるのに、いちいち医学用語を自分がすでに知っている世界に 当てはめようとしてしまうからワンテンポ把握するタイミングがずれてしまう。

日常用語で考えてしまうから、肝心なところで勘違いしていることもある。 ずいぶん前に、先生が「眼振(がんしん)」というから、 単に「視線が振れること」だとばっかり思っていて、 それで話が微妙にずれてしまっていたことがあった。 眼振とは要するにこれがいわゆる眩暈のことなのだが、 いろいろ種類があってこの区別も素人にはわかりづらい。

大学のときとった生物の試験は学術用語の単語テストみたいなところがあって、 ラテン語やギリシャ語由来の暗号みたいな名前を暗記するのに苦労した記憶ばかりだ。が、それは英語が理由だったのではなく 日本語であっても医学関係の専門用語は結局同じように難しいものであった。 結局学問というのはどんな分野でも最初は暗記から入るしかないのだ、 ということを再確認した。

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